たずね

【訪ね】ただいまと言いたくなる町、琴平を歩く。

さまざまな地域に足を運び、その町の「やさしさ」を見つけ出す私たちの旅。第一弾として訪ねたのは、「こんぴらさん」として知られる金刀比羅宮のお膝元、年間200万人もの観光客が集まる香川県の琴平町。長い歴史が息づくこの町で、「好き」を形にする魅力的な人々に出会いました。

1日目:町を歩き、長い歴史と次世代の想いに触れる。

【コトリ コワーキング&ホステル琴平】

琴平に到着してはじめに訪れたのは、金刀比羅宮の参道入り口すぐという絶好のロケーションに位置する〈コトリ コワーキング&ホステル琴平〉。これまで旅館という選択肢が主流だった琴平において、若い世代や海外からの旅行者、さらには中長期滞在を望む人々に向けて誕生したカジュアルな宿泊施設です。

「この町は年間200万人ほどの方が訪れてくれるのですが、多くの方がお参りをして日帰りで帰ってしまう。せっかく来てくれたのであれば、少しでも長く滞在してこの地を知ってほしい。それと、地域を豊かにしていくためには、観光客の受け皿となるような施設が必要ではないかと思ったんです」と、この場所を運営する楠木泰二朗さん。

館内は、ガイドブックや地図など、地域のさまざまな情報にアクセスできる1階のフリースペースをはじめ、2階には個室やドミトリーなどの客室、そして3階には宿泊者が無料で利用できるコワーキングスペースとシェアオフィスを完備。

「1階は宿泊者はもちろん、観光客や地元の人々も自由に使えるフリースペースにしています。ここに訪れた人同士で自然と交流が生まれたらいいなと。地域の人と旅行者がつながることで、琴平に“また来たい”と思える理由になればと思っています」

商店街と参道を繋ぐ「一之橋」は、すぐそばに「一之橋公園」が隣接し、夜になるとそこに飾られた丸金提灯がライトアップされます。さらに上流へと視線を移すと、国の登録文化財に指定された屋根付きの木造橋「鞘橋」が。通常時は通行できない神聖な橋で、毎年10月10日に行われる金刀比羅宮の例大祭の時に、限られた人のみが渡ることができる場所。この「鞘橋」と並んで存在感を放つのが、琴平駅近くにそびえ立つ「高灯籠」。国の重要有形民俗文化財でもあるこの灯籠は、高さ27メートル、内部は3階建てという木造の灯籠としては日本一の高さを誇り、昔からこの町のシンボルであり続けています。


【松尾寺】

「ぜひ訪れてほしい場所があります」と楠木さんが案内してくれたのが、金刀比羅宮のふもとに位置する「松尾寺」。もともとは金刀比羅宮と神仏習合の「金比羅大権現」と呼ばれ信仰されていましたが、明治時代の神仏分離によって神社とお寺に切り離され、今の形になったそう。そんな歴史的背景のあるお寺ですが、「みんなの憩いの場としての顔も持っている」と楠木さん。「ここではイベントもよく開催されています。春はお花見、打楽器を持ち寄って演奏会や、ヨガ体験など。地域の人たちの交流の場として親しまれているんです」


【五人百姓 池商店】

金刀比羅宮の参道の69段目に店を構える〈五人百姓 池商店〉は、1245年創業の老舗飴店。店主の池龍太郎さんは、その長い歴史を今に紡ぐ28代目にあたります。

「店名にある“五人百姓”とは、金刀比羅宮の神様にお供してきた一族のこと。神事のお手伝いを今も続け、境内で商売を許されている五軒の飴屋を“五人百姓”と呼び、〈池商店〉はそのうちの一軒です」と池さん。

境内で売られている伝統の「加美代飴」は〈池商店〉でも作られています。砂糖と水飴を煮詰め扇形に固められた黄色い飴は、ゆずの風味がほんのり広がる、どこか懐かしい味わい。付属の小さなハンマーで割って食べるのもユニークで楽しい。店内には、この加美代飴をアレンジした“ひやしあめ”のソーダやソフトクリームをはじめ、お茶、綿飴など趣向を凝らしたオリジナルのフードやお土産がずらりと並びます。

「コロナ禍を機にお店を100年ぶりにリニューアルしました。これからも伝統を受け継ぎながら、そのときどきの時代に合った形で、さまざまな展開ができればいいなと思っています。江戸時代、“一生に一度は金比羅参り”と言われていました。でも僕らの時代は“人生に何度でも訪れたくなる町”を目指したい。今後も琴平の魅力をいろんな形で発信していけたらと思っています」

五人百姓 池商店(https://ikesyouten.com)


【いわのや】

ランチに訪れたのは、地元ファンから観光客までが列をなす人気うどん店〈いわのや〉。昔ながらのセルフ式で、食べたいうどんを選んだら、カウンターで麺の量やトッピングを店主に伝えてレジへと進むシステム。カウンターにはうどんだしに浸かったおでんや、揚げたての天ぷらも並び、思わず目移りしてしまいます。自慢のうどんは、しっかりとカツオが効いた出汁と、コシが強くもちもちとした食感の麺が相性抜群。メニューは「かけ」が330円、「ぶっかけ」が400円〜と、本場ならではの手頃な価格帯もうれしいポイント。

いわのや(https://www.instagram.com/iwanoyaudon/)

 

【HAKOBUNE】

琴平の中心にある築60年の廃ビルを再構築した複合施設〈HAKOBUNE〉は、もともと6階建ての観光センターだった建物に新たな息吹を吹き込み、現在は4つのフロアが稼働。“アーティストやクリエイターが滞在し、表現や交流をできる場”をコンセプトの切り口に、1階はカフェ、2階はイベントスペース、3階はシェアアトリエ、4階はホステルという構成になっています。

1階にあるカフェ〈Sando Sand. Stand〉は、東京から移住してきた森田夏帆さんが店長を務めるお店。店内奥にはギャラリーも併設し、飲食だけでなくアートや展示も楽しむことができます。またホットのドリンクを注文すると香川や徳島の作家のマグカップを自由に選べるというおもてなしも。

「テーマは、“自分時間を耕す町のリビングアトリエ”です。ここへ来てくれた方が、少しでも自分と向き合う時間を持てたらいいな、と思っています。お茶をしに来たり、仕事をしたり、読書や絵を描きに来たり…。過ごし方は本当に自由。私たちは、広い意味で『誰もがみんなアーティスト』だと定義してます。日常の暮らしのなかで、なにかを“表現する”ことを多くの人に楽しんでほしくて。ここに集う人にとって、何か新しいインスピレーションが生まれるきっかけになれたら嬉しいです」

今は動かないエスカレーターを階段のようにそのまま歩いて上っていくと、約108畳もの広さを誇るレンタルスペースが。観光センター時代は食堂として使われていた場所だそう。

「この建物の内装は基本DIYでできています。天井を解体するところからのスタートなので、とにかく時間がかかるんですが、自分たちで作ることそのものを楽しむプロジェクトでもあるので。周りの人には“香川のサグラダファミリア”なんて言われています(笑)」と、話すのはこのビルを運営する岸本浩希さん。

「2階では日々さまざまなイベントが開催されています。地元の方の講演会や映画の上映会、ライブイベントやマルシェなど。昨年末には音楽フェスも開催しました。3階がシェアアトリエになっているので、そこを利用するアーティストたちの展示スペースとしても活用しています」

かつて宴会場だったという4階はホステルに。居心地の良いリビングのような共有スペースを抜けると、その奥にはそれぞれテイストが異なる5つの客室が広がっています。 もとは一面の畳敷きだったそうで、それをすべて剥がすところから手作業で作り上げたといいます。

「アトリエで創作をするアーティストがそのまま滞在して制作に没頭したり、若い世代や海外の方も気軽に泊まれる場所にしたいと思っています。このビルに足を運ぶ理由や目的は人それぞれでいい。地域の人も旅人も、誰もがふらっと立ち寄って、何か新しい刺激や出会いを持ち帰れるような、琴平のカルチャーの発信地であり、これからのこの町の未来を育んでいけるような場所になれたらうれしいですね」

HAKOBUNE(https://hakobune-building.com)



【KOTOVEGAS】

もう一つ、地域の人と旅人が交差するハブとなっているのが飲食店や日用品店、宿泊施設などが集まる複合施設〈KOTOVEGAS〉です。この場所は、単なる商業施設ではなくコミュニケーションが広がる場として町に新しい風を吹き込んでいます。

「シャッター商店街となっていた新町商店街の空き店舗や空き家を活用して作られました。施設の中央には作家の岡山富男さんが制作した高さ約4.5mの鬼のモニュメントが設置され、このエリアのシンボルになっています」と、このプロジェクトを担当する松田穂花さん。

最初にオープンしたのは〈琴平文具店〉。ここでは、数十種類の表紙・裏表紙、中紙、留具、箔押しの文字などを自分好みで選び世界にひとつの「kotonote」が作れるほか、オリジナルのマスキングテープやレターセットなどを展開しています。

「文具店の隣には〈呑象ブリューイング〉、〈Bagel House KOTOHIRA〉が並びます。どちらもオリジナルの味わいや、地元の素材にこだわったメニューを提供していて、ここでしかできない食の体験が楽しめます」

かつて陶器店だった場所を改装した〈呑象ブリューイング〉は、店内に小さな醸造所を設け、「ことひらケルシュ」などのオリジナルビール4種類を含め、香川や四国のクラフトビールを豊富にラインナップ。その向かいに位置する〈Bagel House KOTOHIRA〉は、ヴィーガン&ベジタリアン専門のベーグルを提供するお店。月替わりで15〜18種のフレーバーが並び、ふわもちの食感が地域の人々や、旅人の心を掴んでいます。

「これらの店の間に点在しているのが、宿泊施設である〈GOKAN KOTOHIRA〉です。木、火、土、金、水をテーマにそれぞれテイストの違う部屋を5棟用意しています」

犬と一緒に泊まれる部屋やサウナ付きの客室など、旅のスタイルに合わせたユニークな選択肢も魅力。“暮らすようにくつろげる”贅沢な時間を過ごすことができます。

KOTOVEGAS(https://kotovegas.com)


【果桜軒】

この日のディナーは、金倉川沿いにある古民家を改装したビストロ〈果桜軒〉で。店の前やドアには、絵が得意なシェフによるイラストが描かれ、その温かな空気感が訪れる人の心を優しく解きほぐしてくれます。アットホームな雰囲気に満ちたお店ですが、その味わいは本格派。老舗洋食店で経験を積んだシェフが手がける、どこか懐かしい味わいの洋食は一口食べれば誰もが笑顔に。中でもじっくりと時間をかけて煮込まれたデミグラスソースがかかるハンバーグは、ふっくらジューシーで、お肉の旨みと濃厚なソースのコクが口いっぱいに広がる珠玉の一皿。訪れたら絶対に外せない看板メニューです。

果桜軒(https://www.kaohken.jp)

 

【Don’t Tell Mama】

「とあるバーで飲んだ『マッカラン』に衝撃を受け、そこからウイスキーにのめり込みました」と語る、オーナーの秀石京亮さん。新町商店街に店を構えるバー〈Don’t Tell Mama〉は、スコットランドの蒸留所を144箇所巡ったというオーナーの、ウイスキーへの情熱と美学が凝縮された空間。店に置いてあるウイスキーはなんと数千種類。その人の気分や好みに合ったものを飲んでほしいという思いから、あえてメニューは置かず、 会話を通じてその夜の気分に寄り添う1杯を提案。ウイスキー初心者から玄人まで誰もが楽しめる空間になっています。

2日目:こんぴら参りの後は、少し足を伸ばしてまんのう町へ。

【金刀比羅宮】

ほろ酔い気分で眠りにつき、迎えた次の日の朝。澄んだ青空が広がり、絶好のお参り日和。古くから「こんぴらさん」として親しまれている「金刀比羅宮」へと向かいます。うどん店や土産物店でにぎわう道を進んでいくと、いよいよ御本宮へと続く長い石段が現れました。御本宮までの段数は785段。段差や幅の違う石段を一歩一歩確かめるように踏みしめていきます。

特に息が切れると言われる「一之坂」を越え、およそ半分の365段。やっとの思いで大門に着くと、琴平の景色を一望でき、爽やかな風が吹き抜けます。門をくぐってすぐの場所には、和傘を広げた「五人百姓」が。境内で唯一販売を許されている御利益飴「加美代飴」が売られています。ここまで来ると、ようやく御本宮まではあと半分。ここからは少し傾斜も落ち着き、美しい平坦な石畳が続いていきます。

「こんぴらさん」は、唯一犬との参拝が許されている神社としても知られる場所。江戸時代、病気などで自ら参拝できない主人に代わり、旅人の手を借りながらお参りを果たしたという「こんぴら狗」の歴史が今も息づいています。

御本宮に向けたクライマックスの道中で迎えてくれるのが「賢木門」。かつて長宗我部元親が献納した際、一本の柱を誤って逆さまに取り付けてしまったことから、古くは「逆木門」と呼ばれていたというユニークな歴史を持ちます。そんなおっちょこちょいな逸話に心を和ませつつ、いよいよ最後の急階段「御前四段坂」へ。これまでの道中を振り返りながら勢いよく登り切ると、ついに785段目の御本宮に到着。目の前でゆっくりと手を合わせ、ふと振り返れば、眼下には讃岐平野の圧倒的なパノラマが。

「一生に一度は」というこんぴらさん。道中に残る歴史の物語に触れながら、自らの足で登ったからこそ味わえる確かな達成感。琴平の中心となるこの場所は、今も昔も変わらず、訪れる人々を惹きつけるこの町の一大シンボルであり続けています。

金刀比羅宮(https://www.konpira.or.jp/)

 

【金陵の郷】

金刀比羅宮から下りたら、参道口にある〈金陵の郷〉へ。ここは、江戸時代から「讃岐のこんぴら酒」として親しまれてきた銘酒「金陵」の酒蔵。“村長”を務める高橋暁さんに案内してもらい中へ入ると、御神木でもある大楠がそびえたつ「くすのき広場」を中心に、金陵の歴史を知ることができる資料館が。かつての蔵を復元した館内では、当時の酒造りの工程が人形や酒造道具を用いてわかりやすく再現されています。併設するショップには、金陵の日本酒をその場で楽しめるブースも。

金陵の郷(https://www.nishino-kinryo.co.jp)

   

【麻心】

785段の階段を上り下りしてお腹も空いた頃、ランチに訪れたのは〈麻心〉。「もともと鎌倉で20年近く店をやっていて、その2号店目として2020年に琴平にオープンしました」と、オーナーである森下真司さん。店名のとおり“麻(ヘンプ)”を用いた自然派の食事を提供します。オリジナル配合のスパイスで作られたヴィーガンカレーや、旬の野菜をふんだんに使ったデリは、心と身体がじんわりと癒される優しい味わい。店内では定期的に音楽ライブが開催され、1階には店主セレクトの麻製品や、ライフスタイルアイテムも並びます。

麻心(https://www.instagram.com/
magokoro_kotohira/)


【サニーサイドフィールズ】

琴平から車を走らせて10分。隣町であるまんのう町の田園地帯にポツンと現れる〈サニーサイドフィールズ〉。「車で偶然このあたりを通った時に、景色がすごく素敵だなと思って」と話す、代表の多田周平さん。“公園のような場所が作れたら”というのが、この場所のスタート地点だったそう。会社が掲げるテーマ「共生と調和」を表現する場所としてこの施設をオープンしました。

かつて看板工場だった建物をリノベーションした広々とした敷地内には、チョコレート工房とコーヒーロースターを中心に、遊具や本が読める図書室、畑、ヤギ小屋などが点在します。

「この場所は地域の人と一緒になって作っています。近所の方から不用品をもらい受け、店舗内の什器にしたり、畑の収穫祭を手伝ってもらったり。ショップでは地元農家の有機野菜も販売しています」

屋外から地続きになっている店舗スペース。開放的な空間は、外の田園風景や風がそのまま流れ込んでくるような心地良さがあります。チョコレート工房やコーヒーロースターはガラス張りになっており、製造工程が見えるオープンな設計。カカオ豆やコーヒーの香りが漂い、五感が自然と開かれていく感覚があります。カフェも併設し、チョコレートを使ったスイーツやドリンクのほか、地元の旬の野菜をふんだんに使ったピザやカレーなどのフードメニューも充実。

「中でも人気なのは、“畑のチョコレート市場”と名付けたチョコレートの詰め合わせ。自家焙煎のカカオで作った、さまざまなフレーバーや食感のチョコが常時15種類ほど並び、カップに好きなだけ詰められるようになっています」

店としての機能だけでなく、週末にはライブなどの音楽イベントやマルシェ、ワークショップ、夏には盆踊り大会なども開催。地域住民が自然と集うコミュニティのハブとしても機能しています。また最近は、メインの店舗から少し離れた場所に「Hanare」と名付けられたスペースもオープンしたそう。

「この場所の使い方は決めていません。バーベキューしたり、好きな本を持ってきて読んでもらったり。この地域の人も、〈サニーサイドフィールズ〉を訪れてくれた方も、自由に過ごしてもらえたら。こうして定義しないことが、僕たちが掲げる“共生と調和に”繋がる気がしているんです」

長い歴史を持つ金刀比羅宮のふもとで、新たな変化が次々と育まれている琴平。この小さな町で出会ったのは、新旧のカルチャーが心地よく交差する自由でやさしい空気感でした。それぞれがそれぞれの場所で、町の未来をゆるやかに描いていく。私たちを単なる「旅人」ではなく、まるで「仲間」のように温かく受け入れてくれるこの地と人々は、きっと多くの人にとって“一生に一度の目的地”ではなく、“何度でも帰ってきたい町”となるはずです。