たずね

【訪ね】大地の命と受け継がれる文化を五感で味わい、八雲を知る。

さまざまな地域に足を運び、その街の「やさしさ」を見つけ出す私たちの旅。今回訪れたのは、北海道・八雲町。函館空港から車を走らせること約1時間半。木彫り熊発祥の地としても知られるこの町は、広大な自然に囲まれ、豊かな第一次産業に恵まれた場所です。ここで私たちが出会ったのは、町の文化や歴史を守りながら、想いのバトンを受け継いで町に新しい風を吹き込む人々。静かに熱いエネルギーを繋ぐ彼らの姿を追いかけました。

1日目:大地の恵みを味わい、町が紡ぐ文化の渦へ。

【ハーベスター八雲】

八雲に到着してまず向かったのは、国産ハーブ鶏発祥の地としても知られる〈ハーベスター八雲〉。美しい白樺並木の道を上がった先に待っていたのは、青々とした大草原と、その奥に広がる噴火湾の大パノラマでした。

爽やかな風が吹き抜ける景色の前でいただくのは、本格的な石窯ピッツアやジューシーなハンバーグ、スペアリブ、そしてご当地名物の「スペシャル二海カレー」。地元産の野菜や魚介、お肉や牛乳など、八雲の豊かな自然が育んだ恵みを丸ごと味わうメニューが勢揃い。最高のロケーションとおいしい料理に心も身体も満たされ、これからの旅への期待がグッと高まります。

ハーベスター八雲(https://harvester-yakumo.com)

 

【エルフィン】

食後のデザートは別腹!〈ハーベスター八雲〉からすぐの場所にある〈エルフィン〉へ。ここは、八雲で創業100年以上の歴史を持つ元山牧場の直営カフェで、新鮮な牛乳を使ったスイーツが楽しめます。ショーケースにはプリンや焼き菓子、ジェラートが並びます。

さまざまな誘惑に目移りしながらも、今回選んだのは看板メニューの「ミルクソフトクリーム」と、牛乳たっぷりの「カフェラテ」。濃厚なコクがありながらも後味さっぱりなソフトクリームは、コーヒーの苦味と相性抜群。お腹がいっぱいでもペロリといただけてしまう絶品の美味しさでした。

エルフィン(https://motoyamabokujyou.com)

 

【ペコレラ学舎】

そして向かったのは、今回の宿泊先でもある〈ペコレラ学舎〉。2012年に閉校した小学校をリノベーションした、体験型宿泊・交流施設です。かつての校舎の面影を残した空間は、どこか懐かしく、足を踏み入れた瞬間にほっと心が和みます。

「“遊んで学べて泊まれる学び舎”をテーマに、2021年にオープンしました。ペコレラはアイヌ語で、ペコ=牛、レラ=風を意味する言葉です。ここ周辺は酪農地帯で牛の香りが風に運ばれてくるので、この名前をつけました。」と話すのは、この場所を運営するbirch株式会社 代表の赤井義大さん。

広々とした校庭はオートキャンプ場として活用されており、夜には焚き火も楽しめます。校内は音楽室や教室が宿泊ルームへと生まれ変わり、図書室は誰もが自由に出入りできる共有スペースに。窓の外の牧草地を眺めながら、ゆったりとした時間を過ごすことができます。また、コワーキングスペースを備えているほか、かつて教員住宅として使われていた離れは一棟貸しの宿泊施設に。室内には3つのベッドルームやリビング、キッチン、お風呂などが揃い、まさに暮らすような感覚で八雲での時間を満喫できます。

訪れた当日は、42年前から続く八雲のお祭り「八雲山車行列」の開催日。〈ペコレラ学舎〉には、この祭りに参加する人たちが全国各地から集まり、特別な活気に包まれていました。

「今日、ここには八雲山車行列に参加する150名ほどが宿泊しています。ここでは“八雲山車行列キャンプ村”として、1週間ほど前から全国や世界各地から祭りに参加する人たちが寝食をともにしながら、祭りで引く山車を制作したり、お囃子の準備をしたり。八雲の町を楽しみながらここで新たな交流や文化を育む場所にもなっています。ぜひ皆さんも祭りを楽しんでください!」

ペコレラ学舎(https://pekolela.com)

 

【熊友工房】

夜の祭りへの意気込みを胸に、次は木彫り熊の手作り体験ができる〈熊友工房〉へ。八雲は木彫り熊の発祥の地であり、ここでは手のひらサイズの木彫り熊を一から作ることができます。教えてくれるのは、現役の作家でもある小熊秀雄さん。木彫り熊を作るのにぴったりなお名前に、思わずほっこりしてしまいます。

「私が木彫り熊を作り始めたのは、今から10年ほど前。もともとはこの場所で花屋をやっていたのですが、八雲で気軽に購入できる木彫りの熊が少なくなっていると感じて、作り始めました。ここでは、作家の柴崎重行さんの作品で広く知られる“面彫り”のスタイルで熊を彫っていきます」と、小熊さん。

作業台には小刀と彫刻刀が並び、①〜⑧まで工程順に彫られた木の見本が置いてあります。まっさらな木の塊からどのような手順で愛らしい熊の姿へ変わっていくのか。小熊さんの手ほどきを受けながら、いよいよ自分だけの木彫り熊作りのスタートです。

「上手い下手はないので、ケガに気をつけて自分のペースで彫ってくださいね」

まずは、顔の輪郭を削り、次は耳のパーツ、お尻、胴体、足……と刀を進めるうちに、いつしか木を削る音だけが部屋に響き、気づけば無言で没頭する私たち。時計を見るとあっという間に2時間半! 始める前は「案外すぐにできそう」なんて思っていたものの、実際に削ってみると彫り方や力の入れ方で表情が変わっていく面彫りの難しさに直面。それぞれが自身の“彫り方”を見つけ出しながら、少しずつ熊の姿が現れてきます。

「工程の最後は顔の表情を作っていきます。笑顔にしてもいいし、低い鼻もかわいい。自分の好きな表情にしてください」

作業時間3時間強かけてできあがった自分だけの熊。それぞれの個性がしっかりと反映され、世界に一つだけの木彫り熊が誕生しました。彫りすぎたり、左右のバランスが取れてなかったとしてもそこはご愛嬌。自分の手で彫り上げた一頭は愛おしさもひとしおです。八雲で出会ったパートナーとして、思い出とともに大切に連れて帰ります。

熊友工房(https://www.instagram.com/yuyukoubou_yakumo/)

 

【八雲山車行列】

北海道三大あんどんまつりの一つ「八雲山車行列」。町の中心部を太鼓やお囃子の音とともに、色彩豊かな山車が練り歩く、八雲の夏を象徴する一大イベントです。今年は7月3日(金)〜7月4日(土)にかけて行われました。

このお祭りは42年前、地域を盛り上げるために当時の若者たちが企画した手作りの山車行列が始まり。ネコや馬、ねぶたなどを模したあんどんを載せた山車は、団体ごとに造形や表現もさまざまです。伝統的なお囃子だけでなく、ブラスバンドの生演奏やDJブースを載せてダンスしながら練り歩くユニークな山車も登場し、沿道と引き手が一体となって盛り上がります。子どもからお年寄りまで自由に踊りながら楽しむ姿は、まさに八雲町ならではの温かいグルーヴに溢れていました。

〈ペコレラ学舎〉を拠点とする“八雲山車行列キャンプ村”の仲間として参加した私たち。法被を羽織らせてもらい、いざ輪のなかへ。町民でなくとも、誰もが自由に飛び込める、そんなオープンな空気感に背中を押されます。音に身を委ねて身体を動かすうちに、はじめて訪れた八雲の町が、まるで馴染みの場所のように感じられていきました。

今年は大小25基の山車が参加。各団体が手塩にかけて作り上げた山車は、その出来を競うコンテストも毎年開催されており、“八雲山車行列キャンプ村”は大賞に次ぐお祭り賞を受賞!町の心地よい熱気を肌で感じながら、初日の夜が更けていきました。

八雲山車行列キャンプ村(https://dashi-camp.studio.site/)

 

2日目:木彫り熊の奥深き世界と、八雲のディープな夜に酔いしれて。

【木彫り熊資料館】

北海道のローカルコンビニ「セイコーマート」で朝ごはんを済ませ、2日目の最初に向かったのは〈木彫り熊資料館〉。道内でも珍しい、木彫り熊の歴史をじっくり学ぶことができる場所です。昨日の体験ですっかり木彫り熊の世界に魅了された私たちに、小熊さんが「八雲に来たら外せないよ!」と、おすすめしてくれました。

館内には、北海道第一号の木彫り熊とそのモデルとなったスイスの木彫り熊をはじめ、八雲で作られ続けてきた木彫り熊はもちろんのこと、道内の他の地域で彫られた熊も並んでいます。

“木彫り熊”と言っても、その表情やタッチは実にさまざま。八雲で作られた作品には、リアルな毛並みを1本1本刻み込んだ「毛彫り」と、木目のカットを生かした抽象的なフォルムの「面彫り」という大きな2つのスタイルがあり、それぞれの表現の違いを知ることができました。

木彫り熊資料館(https://www.town.yakumo.lg.jp/soshiki/kyoudo/)

 

【ホーラク】

まだまだ木彫り熊への探究心が尽きません。次は八雲駅のそばにある喫茶店〈ホーラク〉へ。こちらも木彫り熊を知るうえでは外せないスポットのひとつです。扉を開けると、八雲で彫られたという木彫りの熊がずらり。夜はスナックにもなるというこの店の棚には、お客さんのキープボトルとともに、貴重な木彫り作品が鎮座しています。小熊さんの作品もいくつか飾ってありました。

そんな光景を眺めながらいただいたのは、この店の名物であるという「焼きチーズカレー」。濃厚なチーズがたっぷりかかったアツアツのカレーは、コクのあるルーと香ばしい焼き目がたまらない一品。マスターのお話に耳を傾けながら、ますます木彫り熊への愛が深まる時間となりました。

ホーラク(https://maps.app.goo.gl/KtNNcpnxPLnenBgv8)

 

【北村牧場】

昨日から、八雲の自然の恵みをたっぷり堪能している私たち。ペコレラ学舎の赤井さんに案内してもらい、それらの命やおいしさを育む〈北村牧場〉へ。広大な敷地には、いくつもの牛舎が並び、豊かな自然のもとで育てられている牛たちの姿があります。

「ここにいる牛たちは、いずれ黒毛和牛として世に出ていくものたちです。ここでは出産から生後10ヶ月まで育てて、肥育農家へとバトンを繋ぎます。ここで育った子牛たちが、飛騨牛や近江牛などのブランド牛として全国に広がっていくんです。各地のブランド牛を辿ると、北海道で生まれ育った子たちが多いんですよ」と話すのは、代表を務める北村卓馬さん。

実は、北村さんは新規就農者。もともと実家が農業をしていて、そこで牛を数頭育てていたものの、畜産に関してはゼロからの挑戦だったそう。

「ほぼ独学でスタートして今年で14年目になります。もともとはひとつしかなかった牛舎も、規模を拡大して現在は400頭ほどの牛を育てています」

母牛や子牛の成長段階に合わせて牛舎が分けられ、それぞれの状態に応じた牧草やミルクが与えられます。子牛は一回につき3リットルものミルクを飲み干すそうで、そのダイナミックさには驚かされるばかり。八雲の恵まれた環境のもと、命の力強さと北村さんたちの情熱に触れ、この土地の食の深さや、食べ物のありがたみを改めて実感しました。

 

【みよし】

大地の恵みに感謝をしながら向かったのは、町の人が口をそろえておすすめする鉄板焼き店〈みよし〉。店の暖簾をくぐると、大きなカウンターに広いお座敷があり、地元の人々で賑わうアットホームな空間が広がっています。

オーダーしたのは生ラム、牛タン、サガリなどなど…。たっぷりのキャベツと一緒に鉄板でジュウジュウと焼きながらいただきます。甘辛いタレを絡めて頬張れば、ジューシーなお肉の旨みとキャベツの甘みが口いっぱいに広がります。締めにはもうひとつの人気メニューであるお好み焼きを食べて、ふんわりアツアツの美味しさを余すことなく堪能。体力もすっかりチャージされ、幸せな満腹感とともに店をあとにしました。

みよし(https://maps.app.goo.gl/ByZQYqMQjGFBE9Gm6)

 

【草笛】

八雲の夜はまだ終わりません。お腹を満たした私たちの次なる目的地は、味わいある看板が目を引くスナック〈草笛〉。小さな雑居ビルの階段を上りドアを開けると、オーナーのすみちゃんがお出迎え。初めて訪れた私たちをまるで昔からの知り合いのように温かく迎え入れてくれました。

地元の方々の歌声を聴きながら、カウンター越しで美味しいお酒と会話に酔いしれるひととき。昼の八雲とはまた違う、この町のローカルな魅力にどっぷりと浸かることができました。

 

3日目:大自然の余韻に浸り、八雲の豊かな恵みを最後まで。

【育成牧場 展望台】

八雲の旅もあっという間に最終日。残された時間で向かったのは、〈八雲育成牧場〉にある展望台。宿から車を15分ほど走らせると見えてきたのは、なんと牛の大行列。広大な敷地でゆっくりと気持ち良さそうに歩く姿に、北海道の豊かで美しい自然のスケール感をしみじみと噛み締めます。

丘を上がって標高235mの高台にある展望台は、晴れていると蝦夷富士とも言われる羊蹄山と駒ヶ岳に囲まれた噴火湾という大パノラマを望むことができるのですが、この日はあいにくの天気。とはいえ、霧に包まれた牧草地はどこか神秘的で、静謐な空気が漂う幻想的な景色をじっくりと堪能することができました。

【冨田農園】

八雲町内を車で移動するたび目に入ってくる、のどかな田園風景。これらの田畑を管理する農家の方に会うべく、向かったのは〈冨田農園〉。八雲の中心地から少し離れた山奥にある冨田さんの畑は、なんと約13haもの広さがあります。

「家業が農家で私で5代目。この畑ではカボチャ、ネギ、ゴボウ、スイートコーンなどの野菜や、漢方、醸造用のブドウを育てています。今はちょうど草取りをしていました。家族も向こうの畑で草取り中です」と、代表の冨田直和さん。

見渡す限り青々と続くこの畑を管理していると思うと、そのスケール感の大きさと途方もない労力に思わず圧倒されると同時に、食べ物への感謝の気持ちが湧き上がってきます。

「実は八雲って、天気があまりよくないって言われている場所なんです。曇りの日が多くて、酪農や農業に適切な温度を保っていられるので、気候的にも第一次産業に適している町なんです。野菜で有名なのは軟白ねぎ。冬が旬のものなので、ぜひ食べてもらいたいです」

 

【金太郎】

八雲の自然を十分に味わった私たちは、旅の締めくくりとして地元のものを余すことなく味わうべく、地元客や観光客でにぎわう〈金太郎〉へ。国道5号線沿いにある昔ながらの食堂で、定食から丼もの、中華まで幅広くラインナップしています。

名物のひとつであるという「金太郎ラーメン」や、ボリュームたっぷりの牛丼に心を奪われながらも、オーダーしたのは「刺身定食」。舟盛りにたっぷりと乗ったお刺身は、ホタテや貝、エビにサーモン、マグロなど全部で10種類ほど。ひとくち味わうごとに新鮮な海の恵みが口いっぱいに広がり、思わず笑みがこぼれます。この町で過ごした3日間を振り返りながら、八雲の食の豊かさを最後までしっかりと噛み締めました。

金太郎(https://maps.app.goo.gl/DMvXF51m2oEozqGv8)

 

第一次産業が豊かな町、八雲で味わう大地の恵みと、世代を超えて紡がれてきた人の温もり。この町で出会った命や景色、文化の数々は私たちに食のありがたみと、自然とともに生きる心地よさを思い出させてくれました。外からの風を心地よく受け入れ、挑戦と優しさの循環が息づく八雲町。またこの場所に戻ってきたくなるような“やさしい世界”がここには広がっています。